「先輩っ勝負をしましょう!!」
僕が横を見ると、後輩のミキが不敵な笑みをたたえて焼きそばパンを掲げていた。軽い足踏みに合わせてツインテールがピコピコ揺れている。
「焼きそばパンをかけるです!」
なんですその取ってつけた語尾はですか。
「……勝った方が焼きそばパンを購入できる?」「です!」
「それ最後の一個?」「です!!」
うーん。
「けど僕、今日はメロンパン食べたいなぁって」
新発売らしい、これでもかと売り文句が躍るビニール袋を手に取った。こういうのに弱いんだよね。
「私は焼きそばパンな気分です」ミキは眉を寄せる。
「ですか」
「メロンパンな気分じゃないんです」
「うん」
ミキは僕の手からメロンパンを取り上げ、棚に戻してしまう。
「なので焼きそばパンで勝負です!!」
「うん、え?」
え?
「はい! じゃーんけーん!!」
「おお?!」
日本人の性なのか、僕は条件反射で拳を固めて振り下ろす――。
◇
「ふっふー、勝利の味は格別ですなあ」
「それはようござんした」
じゃんけん勝負はミキの勝ち。店先のベンチで座った彼女は早速、戦利品の焼きそばパンを頬張っている。
僕の手にはメロンパンだ。結局なんの勝負だったのかよくわからない。
「あー、もう一個食べたいなあ」
「早っ」
こちらのメロンパンはまだ半分くらい残っている。
「ん、ミキちょっと」
僕の手がミキの唇の端をなでる。「んに?」と彼女はキョトンとしてされるがままだ。
「ソースがついてたよ」
指先を舐めると、濃い味が一気に口に広がった。
「……あ」
「あ?」
「あーーーーー!!」
!?
ミキはガバっと立ち上がり、僕に指を突きつけた。
「焼きそばパン食べた!」
「え? え?」
「ダメです食べちゃダメなんですダメですぅー!」
「あ、もしかしてソース? 良いじゃかそれくら――」
「ダーメー!!」
なにこのわがままな子、助けて。
「返して下さい」
「そう言われても」
ソースですし。
「返して下さい」
「えーっと、売ってる店探そうか」
「今です! なうです!」
「えええええ……」
鼻息荒くしたミキが、がしっと僕の胸元を掴む。今にも馬乗りになりそうな勢いだ。
「返して貰います」
そして不敵な笑み。さっきと同じ、勝負をしかけてくるときの顔。
ゆっくりと彼女の顔が近づいてくる。
僕はそのまま何もできるわけもなくて――。
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