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誰にでも遊びやすく、艦これの雰囲気をTRPGに綺麗に落とし込んだ「艦これRPG 着任ノ書」感想

言わずもがな、大人気ブラウザゲームがまさかのTRPG化ですね。一度遊んでみて大体の感触が掴めたので感想を書いていこうかと思いますよ。

リプレイはTRPG・艦これ未経験者を交えて丁寧に進行

まず、リプレイからして「初めて」の人たちを集めているのに好感がもてました。艦これは知ってるけれどTRPG初めて、TRPGは知ってるけれど艦これ初めてという人たちが、どういう風に遊ぶのかという雰囲気を掴むことが出来ます。

キャラクターに属性が加えられていく様や、状況により空想・妄言を言い合いながら「本当にそうなる」一連の流れは本当にTRPGらしい。ここまでやって良いのがTRPG、というのが分かるリプレイは個人的に好きです。

全体的に進行も丁寧で、チュートリアルのように進んでくれて、読んだ後すぐに「遊べる気がする!!」と思えます。

そもそもルルブにリプレイがついているというのは、初めてTRPGを遊びたいと思う人たちにはとても嬉しいことですよね。

テンプレート方式によりキャラ作成の時間を短縮

賛否あるようですが、キャラクターを一から作成するではなくすでにステータスが決まっているキャラクターを選ぶ「テンプレート」という方式は艦これに合っていますし、なにより初めての人たちの負担を減らす事が出来ます。特に艦これを知っている人たちからすれば、艦娘たちのステータスは元々決まっているのが当たり前ですしね。

テンプレート方式だからといって、選べるキャラクターは三十人程度。さらには四月に拡張も発売が決定し、さらに選べる艦娘は増えるようです。特徴もきっちり捉えていて「ああ、そうそう、こんな感じだよね」という物に仕上がっています。艦これを知っていればすっと理解できるものになっていますね。

さらに、数行のキャラクター解説とリアクション表に記載されている台詞から艦これ知識の無い人にも優しい設計。そもそも艦娘という存在自体、背中に砲台をしょっていたり弓を持っていたりして容姿が性能を表しているので、「こういう子なのかな?」という想像のみでのプレイでも的を得ていたりします。

サイコロフィクション特有の遊び易さと楽しさ

艦これRPGの基礎となっているサイコロフィクションというTRPGルールは判定が少し特殊ではありますが、一度マスターしてしまえば行為判定も攻撃判定も回避も全て同じ方法で行うのでプレイに集中できます。舞台も大量にある表によりとても「なんじゃこりゃ」な物になりやすく、お話の種が出来やすいので動きやすくなっています。艦これRPGでTRPGに興味を持てば、他のサイコロフィクションシリーズにも手が伸びやすいというのもいいですね。

手番や感情などといったルールも遊びやすさに繋がっています。誰と誰がどういった環境にあるのか、どういう感情を抱いているのか。さらには手番があることによって、それぞれがどう物語を薦めたいのかという「主導」を握ることができるというのが、なによりもTRPGらしくて素敵だと思います。

さらに、今回は手番の人だけ、もしくはもう一人という括りではなくなっており、原則全員登場している事になっています。常に物語に参加できるのは嬉しいですね。

イベントカードという話題の提供

艦これRPGの大きな特徴に「イベントカード」があります。そのシーンがどういった物になるのか記入されたもので、補給や遊びなどの演出の他に、キーワードという項目があります。これが楽しい。突拍子の無い話題に頭がまっ白になったり、思わず吹きだしてしまう物があったり。「それじゃあこのキーワードどうしよう?」と皆でワーワーこれから起こることを予測しあえます。

艦これを完全に再現した戦闘

あらゆる意味で、原作であるブラウザゲームの艦これは「ランダム要素」との戦いでありますね。これをTRPGでも出来るだけ再現しようと頑張っているのが見て取れます。プロットや判定にそれは秩序に現れているでしょう。

戦闘ルール自体も艦これに合わせていて、フェイズが細かく分かれているのも面白いです。原作の艦これを遊んだことがある人はスッと入る事ができるかと思います。

まとめ

とりとめのない内容となりましたが、艦これからTRPGに入る人にはとても遊びやすいシステムになっているかと思います。サイコロフィクションらしいサイコロフィクション。TRPG好きもきっちり受け止める姿勢にはほれぼれします。

エラッタ、FAQも迅速で、ツイッターによるフォローを見ていると本気具合が窺えます。

これを機にTRPGを遊ぶ人がぐっと増えると嬉しい限りです。

 

 

小説家らしい独特な解釈が面白い「死なない生徒殺人事件―識別組子とさまよえる不死」感想

「永遠の命を持った生徒がいるらしいんですよ」生物教師・伊藤が着任した女子校「私立藤凰学院」にはそんな噂があった。話半分に聞いていた伊藤だったが、後日学校にて、ある女生徒から声をかけられる。自分がその「死なない生徒」だと言ってはばからない彼女だったが、程なく彼女は何者かの手によって殺害されてしまう―。果たして「不死」の意味とは?そして犯人の目的は!?第16回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”受賞者・野崎まどが放つ、独創的ミステリ。

「不死」という物を取り扱う小説は数多あります。バトル物ならば特に、キャラの特徴としてはチョイスしやすいポピュラーな要素ですね。

主人公である伊藤は、とある女子校に着任してすぐ「永遠の命をもった生徒」のウワサを耳にします。最初は信じないながら、そのウワサはことある毎に彼の耳に入るにつれ立場上、命という物が何かを考え始める。

そんな彼の前に、ついにウワサの生徒と相対するが――。

という導入から始まるミステリはしかし、言うほど複雑な構造をしていない。登場人物はそれほど多くないし、すぐに答えも出る。しかしそれでも「不死」という物がなんなのか、主人公が答えに迫っていく様は淡々とした文章も相まって緊張感があります。

個性的なキャラクターが物語自体の舞台装置になってるのも面白い。どんでん返しに次ぐどんでん返しもなるほど、と唸ってしまいます。

死なない生徒についてことある毎に疑問を投げかけてくる同僚。不死な人と友達になりたい女生徒。自らを不死だと名乗る生徒。

キナクサイ。キナクサイよ!

けれども、彼、彼女らとのやりとりが軽快で、ズレていて、楽しいんですよね。

後半の静かな、一気に収束する物語はほどよい刺激になります。全体的に静かな、それでいてゾクっとする気持ち悪さ。

この手の物語を良く読む人にとってはありがちとも取られるかもしれませんが、軽く変な物語を読みたい人にはお勧めではないでしょうか。

百合をするためのTRPG!「える・えるシスターTRPG」感想

百合風味学園コメディRPG『える・えるシスターTRPG』

体験する機会に恵まれましたので軽く感想をば。

百合をするための素材と要素がきちんと揃ってる

ステータスや要素、ルールなどはPC達が百合をするために必要な物は揃っている感じですね。

コスプレイヤー、クール、めがね、腐などなど。おもしろみのある名前の属性がそろっていて、それがゲームに影響を及ぼしています。もちろん突き詰めるとPC同士の優劣が色濃くなるのですが、そこは同人TRPG、「こういうキャラ」が作りたいという欲求を素直に受け入れてくれます。

心と心の距離をマップに

特殊だなと思うのは、PC達の距離感をそのままマップに落とし込んでいる点。物理的な距離ではなく、お互いの親密度をマップにしているんですね。その名も「ココロマップ」。マップの移動は一緒にシーンを演出した相手に任せるというのも面白いです。しかし、リソースである「ハート」もマップに置かれるので、移動するのに躊躇したくなる場面もあります。

シーンは少し複雑かも

日常シーン、対決シーン、暴走シーン、すれ違いシーンなど。どのようなシーンを演出するのかという選択肢も多いのですが、その分いつ出来るのか、それでどうなるのかという把握が難しいですね。また、シーンの中身はプレイヤー達に任されます。

キャンペーン前提という印象

「親密度」という他PCへ対するステータスは最高値100なのは良いとして、それが1セッション10程度程しか上がらない、シーンなどを積み重ねていく上でPLに内容が一任される部分が多いという事で、どちらかというとキャンペーン前提になっている気がしますね。

まとめ

戦闘一切なしの女の子同士のやりとりが遊べるTRPG、色々な属性の女の子をシステム自体が対応している。というのは面白いです。スッキリとしたステータスや、かわいらしいキャラクターシート。見やすいDTP等々。力の入れようが窺えますね。遊んでみると、なるほど女の子達の感情の動きが視覚化されていてロールしやすいです。

ただ、システムがサポートしているのはここまでで、これを遊べば必ず女の子達が百合百合し始めるといった所まではいかないので、プレイヤー達がどのような百合へ持っていくのかを考える必要があります。

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百合風味学園コメディRPG『える・えるシスターTRPG』

原作もどうぞ。

超絶なカオスとキッチリと調整されたバランスが同居するアイドルハント&レッスンTRPG「どるばこ!」

猟奇的破壊集団TRPGサークル「なめくじたべぞう」さんの同人タイトルです。

簡単に紹介すると、プレイヤーはプロデューサーとなり、アイドルを「ハント」して「レッスン」し、来るべきフェスへと向けて準備を整え、これを成功させるというものです。

What’s 「どるばこ!」? – Togetterこちらも読んでみるといいかも。

どるばこ!+その他の委託とかイベントとかのお知らせ | なめくじたべぞう委託情報はこちら。

わかりやすいシステムとインパクトのあるコンセプトです。ルールもサマリー一枚に収まれているのと、キャラクターシートにできる事がまとまっているので全体が見通しやすくなっております。

アイドルを捕まえ育成する楽しさ

メインを担うのはプロデューサーではなくアイドル。現実と同じでこのシステムでもアイドルがメインとなります。システム上でも、ロールプレイ上でも。プロダクションはその大きさに合わせて雇えるアイドルの数が変わるのです。

沢山のアイドルが増えればもちろん最後の舞台、フェスでとても有利になっていきます。まずはアイドルをハントしていかなければ。

このアイドルを「ハント」するのがまず楽しいのです。トランプを引き、その図柄にあわせたアイドルが召還されます。性格が設定されており、それにより多様の成長方針があってこれまたバラエティに富んでいたりして。

プロデューサー:「ねえねえ、アイドルに興味ない?」

印象・毒舌:「え? なにいきなり。意味わかんないんだよね、キモイ死ね☆」

プロデューサー:「え、いや、えっと、スカウトなんだけれど。芸能界とか、興味な――」

印象・毒舌:「証拠出してよ。視界に居られると気分悪くなるんだよね。これ以上ぐだぐだやってると警察呼ぶよ♪」

のような小芝居を挟むようにしたりするとさらに面白いです。アイドル役はGMに任せても良いし他のプレイヤーが率先してやるときもありますよ。どちらにせよかなり盛り上がります。

続いて育成ですが、レッスンすることによりアイドルたちはドンドン特技やステータスが上昇していきます。一般的なシステムにおけるレベルアップのような形で、これまたワクワクするところです。自然と愛着が出来てきたりして、ロールプレイに熱が入ります。

プロデューサー:「今日はグラビアだ!」

印象・努力家:「う、うう、恥ずかしいですけどがんばります!!」

プロデューサー:「その表情いいよ!! いいよいいよ!!!」

印象・努力家:「キャ! どこから撮ってるんですか! やめてください! やめてください!!」

すっごい楽しいです。掛け合いもさることながら、現在進行形でキャラクターが育つというのは中々他のシステムでは味わえないのでとても新鮮。

一人六役なんて当たり前

そんなシステムですから、最終的にはアイドルが六人くらいになることはままあります。皆性格が分かれているので、結構被らずにそれぞれの個性が発揮されていきます。プレイヤー達でわいわい「この娘、最近レッスンしてないからそろそろ拗ねてるんじゃない?」とか言いつつ相談してみたり。完全にシステム上の論理思考から外れた判断をし始めます。ただ、それで良いと思えます。

サイコロフィクションをアレンジした手番方式を採用されていますが、よくあるような「手版じゃないからロールプレイできない」ということもなくジャンジャン口を出していく感じも良いですね。

そして、それをさらに促進される仕組みが「パッション」の投げあいです。

飛び交うパッションでロールプレイ合戦が

プレイヤーは皆手札にトランプを持っております。他人のロールプレイが面白かったりした場合(パッションを感じた場合)、これを譲渡する事ができます。また、GMからも飛んでくるので、とにかく隙あらばロールプレイしてやろうと盛り上がります。

プロデューサーでがんばるもよし、アイドルでがんばるもよし。

私の場合やりすぎて頭が痛くなってきます。が、楽しいからやめられないんですよね。ひどいプレイヤーです。

そしてフェスへ

フェスは文字通りフェスです。コンサートのようなものでしょうか?(実はよくわかってない)

ステージに立ち、レッスンの成果を皆に見せるのです。ここは大体完全にサイコロフィクションの体をなしています。トランプの図柄に合わせた指定特技へとダイスで判定を行うというシンプルなもの。サイコロフィクションが初めてでも、かなり簡略されているので一度やるとすぐに理解できるものに仕上がっています。

ものまねを披露したり、手品を披露したり、歌ってみたり、キグルミアクションしてみたり。ファン獲得のためにアイドルたちが奔走します。今まで手塩に育てたアイドルだけに、自然と皆ロールプレイやっちゃうんですよね。

最後には判定に成功した数で集計し、シナリオによりフェス成功・失敗が決まります。どちらにせよ達成感をともなう、「やりきった」感が味わえます。

垣間見えるブラックさ

さて、そんなこんなですばらしく楽しいシステムなのですが、そこかしこにブラックな要素が垣間見えます。

アイドルを「ハント」するのもそうですが、プロデューサーのアビリティ使用のリソースを「寿命」と称したり、ドリンクパーティーを行いながら影でアイドルを解雇したり。

プレイ中にも「寿命を減らせば~」や「そのアイドルはもう使い潰して~」など、意地の悪い会話がなされます。そういうところがさらに深いなと感じさせられますね。

まとめ

とにかく人を選ぶな、という印象ですが、ロールプレイに命を掛けているという人にはお勧めではないでしょうか。なんせ、プレイの8割程度がロールプレイで構成されているのですから。

わいわい騒ぎたい。掛け合いを楽しみたい。アホなシステムを求めている。そんな人にはお勧めですよ。イヤ本当。

ショックだけを与えられて無責任に放り投げられる「人間仮免中」感想

壮絶な過去と統合失調症を抱えた著者が、36歳にして出会った25歳年上のボビー。苛烈で型破りで、そして誰より強靱なふたりの愛を描いた感動のコミックエッセイ。

読んだあと、しばらく脳の中で整理がつかずにボケっとそのまま二時間ほど経っていた。

感動したとか、感激したとか、笑ったとか、勇気をもらったとか。とにかくそういう風に言い表せられないくらいに、なにやらごちゃ混ぜになった気分にさせられる。とにかく、「ショック」を受けたというのが適当に思える。

本著は、卯月 妙子が歩道橋から身を投げ出す場面から始まる。そこから一気に過去へと飛び、彼女の人生、その一端を見る事が出来る。いや、押し付けられる。

一方的な「卯月 妙子」自身の世界、価値観、主張を淡々と流し込まれるのだから、たまらない。冷静に考えれば、自己中心的な考えは決してうなずけるものではない。しかしインパクトを伴う彼女の人生が、読んでいる私たちの価値観すらも捻じ曲げよう、捻じ曲げようと訴えかけてくるのだ。たまらない。

彼女は自分自身に起こる全てを受け入れているようで、それを素直に表現してくる。全てを。主観だけで描かれているから、素直に受け入れられると美しい話に見えなくもない。しかし、その裏側を思うと、彼女の周りに居る人々を思わずには居られない。スッキリとしながらも崩れた線に、著者の精神状態が見えるようで恐ろしい。

一コマ一コマに渦巻く執念のような何かを感じるようで、中々前に進まない漫画は初めてだった。

ある意味で、生きるってこういうことなのかもしれないな、と納得できる。かもしれない。

いくつにも重なるレイヤーが瓦解する恐ろしさ「リライト」感想

過去は変わらないはずだった―1992年夏、未来から来たという保彦と出会った中学2年の美雪は、旧校舎崩壊事故から彼を救うため10年後へ跳んだ。2002年夏、作家となった美雪はその経験を元に小説を上梓する。彼と過ごした夏、時を超える薬、突然の別れ…しかしタイムリープ当日になっても10年前の自分は現れない。不審に思い調べるなかで、美雪は記憶と現実の違いに気づき…SF史上最悪のパラドックスを描く第1作。

目まぐるしく主観が変わり、まるで振り落とされそうな速度を出しながらも伏線が積み上がっていくが、あくまで物語は淡々と進行する。

いったいどこに着陸するのだろうとのんびり構えていると、最後の最後であざ笑うかのような結末が待っている。

タイトルにもなっているリライト。過去が上書きされ、未来が知らず知らずに変わっていく恐怖に主人公はさらされる。しかしどうする事もできずに時間だけが過ぎていく。その焦燥感とやきもきさったらない。ページが少なくなるにつれてこの物語はどこに行くのかまったく分からず、伏線はさらに積み上がる。

十年前の思い出。未来人と自称する男の子との出来事。そして今、来るはずだった過去の自分。本。同窓会。アルバム。殺人事件。

まるでフィルムが折り重なったように立体的になったところで、衝撃的な結末、リライトの意味、全ての始まりが明らかになるのだが、まるでハンマーで振り下ろしたかのようにグチャグチャに散らばって開示される。そこから全ての断片の整理が始まる。本当の意味でのSFサスペンス。読んだ後にここまで読了感の無い本も珍しい。すぐに最初のページを開き、二週目を読んでしまった。人によれば三週目に入る事もあるだろう。

軽い読み味に、しかし複雑に積み上がる伏線の数。このシリーズは全てで4冊出る予定があるようだ。「リライト」がこの先どのような広がりを見せていくのか。楽しさと恐ろしさを感じながら待とうと思う。

最適化されたサイコロフィクション「キルデスビジネス」ルールパート感想

他人を蹴落としてまでも叶えたい願望のある人間を集めて開催される、地獄のリアリティーショー「キルデスビジネス」

標的には死を、ライバルにも死を。全てが許されるゲームが始まった。

全ては視聴率のために。

ボードゲームの祭典「JGC」にて、先行販売されたものを早速プレイしてみました。方々でも感想はあがってるかと思いますが、本記事はあくまでシステムルール自体の感想に終始します。

全体的に軽い

とにかく軽い。

キャラクターシートに記入する項目も少なく、HPやMPのような概念すらも取りさらった潔いステータス。キャラの性質や性格もランダム表が用意されており、迷うならそれに頼れば特長的なキャラクターがすぐに出来上がる。

地獄に呼び出された人々がテレビ番組に出演させられて標的を殺すことを要求される。それぞれ他を蹴落としてでも叶えたい願望があり、この番組の景品ともなる。しかし、それが叶うのは一人だけ・・・。ここまでお膳立てしてくれるので、プレイヤーもスムーズにゲームに入り込むことができるし、まどろっこしいモノローグも必要ない。

攻撃はスキルにて行う。スキルには一行から二行の記述で効果が収まっているので判断に迷う事もない。一人二つのクラスを選択し、クラスごとに三つずつのスキルが用意されている。二つのクラスで計六つのスキルを自動で取得。どれを取得して、どれを省くかなんてまどろっこしい事もない。とにかくクラスを選べばもうそのキャラが完成する。攻撃が成功すれば相手が死に、失敗すれば反撃されてこっちが死ぬ。シンプル。

インパクトがありながら、数行の説明で済む世界観

舞台は地獄。しかし独自の文化や地図や名前なんてものを説明する必要はまったくない。地獄のものには全て「ヘル」がつくだけだ。「ヘル」がつけば全て地獄のもの。とにかく「ヘルヘル」言っておけばそれでOK。アホらしいがインパクト抜群で、実際やってみるといつまでも頭に残るほどに影響力の強い設定だ。

「ここはヘル教会のヘル祭壇です。標的が懺悔をしているところに貴方たちが登場しました。足元にはヘルプロデューサーが指示した通りヘル目張りが張られているので、そこに立って整列してください。一瞬送れてヘル花火が爆発してヘル火花が散り、ヘルファンファーレが音量『ヘル』で鳴り響きました!! ヘルカメラマンがヘルローアングルで貴方たちのヘルカッコイイポーズをヘル写します。音楽が切り替わり『ヘルバッヘルベルンのヘルカノン』になったところで戦闘がスタートします」

始終こんな感じですばらしく楽しい。

作成されるキャラクターも妄言と妄想を詰め込んだものを作れれば完璧だ。例えばウインクで相手が蒸発するとか、お辞儀をすると相手が爆発するとか、抱きつくと相手が粉砕されるとか、オヤジギャグを言えば相手が凍り付いて死ぬとか。そんなことを考えながら楽しくわいわいキャラを作ろう。

そぎ落とされてコンパクトにまとまったルール

一方で、システムルール自体はかなりコンパクトにまとまっている。まるでボードゲームのようにキッチリとしており、GMの調整が入り込まないほど。最悪全員プレイヤーでも成立するのではないかと思えてしまうくらいだ。

GMの作成する標的と、それを守護する守護天使も実際そこまで強くもない。あくまで標的であり、倒される存在であると完全に定義されている。PLたちは「誰が」それらを倒すのか、「誰を」出し抜くのか、という思考戦が始終展開されており気が抜けない。まさにボードゲーム的というか、カードゲーム的というか、戦略が物を言う。

戦闘に破れると強くなるというのも面白い。わざと負けるという選択肢すら出てくるからだ。

サイコロフィクションというTRPGシステム群の、ひとつの最適解にも見える反面、サイコロフィクションだからこそというデメリットも見えるのも事実。手番があり、サイクルで一人ずつ行動していくのがサイコロフィクションだが、戦闘は長くなりがちだし、その間参加しない人は待機することになる。暇な時間がどうしても出来るというのは、まあ今までのサイコロフィクションでもあったことだ。ロールプレイをいくらでもできて口を軽く挟める人なら問題ないかもしれないが、今回は対立の面が強いので今までより色濃くそういった部分が浮き出る。もしかするとこのシステム面で合わない人は出てくるかもしれない。

最終的な勝利をどうイメージするのか、どうロールプレイをするのか、どう立ち回るのか。多方面で思考をまわすので以外と負荷は高い。しかし、パーティーゲームのような手軽さも同時に併せ持っているので、初心者のTRPG入門にはぴったりなのかもしれない。断言できないところがTRPGの難しいところでもあるなと思う。

とにかくテンポ命の新感覚すぎるラブコメ「恋愛暴君」感想

男子高校生・藍野青司のもとに、任意の二人を強制的にキスさせるという不思議アイテムを持った死神風の少女・グリが現れた。強引にキスを迫ってくるグリに対し、青司は……?
メテオの新星・三星めがねが贈る、抱腹絶倒ラブコメディ第1巻!

コメディに突き抜けすぎる

とにかく設定やら何やらが軽い。名前を書くとキスをして恋人同士になる「キスノート」は勿論、最初のヒロインである「グリ」は恋愛感情を持たないながらホモ趣味。主人公とキスをしてもきょとんとした表情をしているのは何だか新しい。

主人公も主人公で、ラブコメでよくあるような鈍感主人公ではなく一般的な常識と恋愛観を持っている。こんな二人がラブコメに放り込まれるのだから暴走するのは当然のことだ。

後々追加されるヒロインもひどい(褒め言葉)。主人公が元々好意を抱いていた女子生徒はヤンデレだったし、そのヤンデレを好きな女の子も登場し三つどもえ、四つどもえの体相をなしてくる。

とはいえ、ラブコメらしさを忘れているわけでもない。グリの世間知らずながら特殊な性癖のせいで暴走し、それに巻き込まれる主人公の苦悩は計り知れなく面白おかしい。絵柄もかわいいし、まどろっこしいヤキモキさなどはない。

思うに、これは美少女ゲーム、ぶっちゃけエロゲー的な設定を無理矢理にでも一般的なラブコメディに持ち上げた作品ではないのかと思う。アホらしい設定を真面目にここまで持ち上げてみせるアホらしさが素晴らしい。もちろん褒め言葉だ。今回はキャラクター同士の顔見せと言った具合で、本格始動は次巻からといったところ。次巻が楽しみだ。

王道、丁寧。だからこそグっとくる「魔王さんちの勇者さま」感想

澄人は16歳になった瞬間にたたき起こされ、父親から「勇者となって世界を救え!」と言われる。まだ眠いので再びふとんにもぐりこみながら、てきとーな返事をして二度寝ときめこむ。目覚めたら、見慣れない世界にいた。そんな澄人の前に〈魔王様〉が現れた!「我の部下になるというのならば、その命助けてやってもよいぞ」その言葉を聞いて、「そっちでお願いします」と、いうわけで、勇者の澄人は魔王の手下になり、魔王の娘の付き人としての生活が始まった!徳間デュアル文庫特別賞受賞作品。

そういうわけで、オーソドックスもオーソドックスな「我が部下になれば~」「はい」という流れのファンタジーものです。全体的にほのぼのとした空気が漂っており、魔王を殺すためだけの聖剣を持つ主人公と、魔族からも恐れられるほどの魔力を持つ魔王の娘との交流を描きます。

あっさりと流れるように描かれる設定は意外と重く、なぜ魔王が居るのか、勇者が居るのかという説明もカバー。そつなく綺麗にまとまっています。

王道、基本をしっかり抑えていて、それだけじゃない確かな魅力。のほほんとした主人公と、自分の力に戸惑いつつ成長していく魔王の娘との交流が楽しく、いつまでも続いてくれと願うばかり。

紙飛行機を見て魔法じゃ無いのか!? と息巻く姫を見て微笑む主人公の画が目に浮かびます。

そして魔王を倒しにやってくる人間。魔王の意味。勇者の意味。結末。

丁寧に描かれてきたからこそ結末が胸にきます。

剣と魔法、ファンタジーに少し飽きてきた人は、リセットの意味も含めて読んでみてはいかが。間違いなく良作です。

イラストが見やすくかわいらしい「片桐義子の花言葉」感想

どんなときも幸せでいたい大切な自分への贈り物―7つの扉を開けるとあなたを応援する花たちの366のメッセージがあふれています。

写真ではなく暖かみを感じるイラストがとてもいい。文字も大きく、情報も最小限。想像力を刺激されます。

表紙にある「open seven doors」の通り、7つの扉になぞらえて花と花言葉を紹介していて、本を開く楽しさもある。

  • 自分を大好きでいたいとき
  • 自分に自信をもちたいとき
  • 広く大きな夢を描きたいとき
  • 新しい一歩を踏み出したいとき
  • リラックスした気分になりたいとき
  • 穏やかな落ち着いた気分になりたいとき
  • 満ち足りた幸せを手に入れたいとき

とても簡潔。

解説もちょっと気ままというか、おどけていたり日記のような物があったり。とても自然体な気持ちで読む事が出来る。

本自体も小さくてかわいらしい。枕元に置いてパラパラめくるのに丁度良い本です。