「ライトノベル」カテゴリーアーカイブ

小説家らしい独特な解釈が面白い「死なない生徒殺人事件―識別組子とさまよえる不死」感想

「永遠の命を持った生徒がいるらしいんですよ」生物教師・伊藤が着任した女子校「私立藤凰学院」にはそんな噂があった。話半分に聞いていた伊藤だったが、後日学校にて、ある女生徒から声をかけられる。自分がその「死なない生徒」だと言ってはばからない彼女だったが、程なく彼女は何者かの手によって殺害されてしまう―。果たして「不死」の意味とは?そして犯人の目的は!?第16回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”受賞者・野崎まどが放つ、独創的ミステリ。

「不死」という物を取り扱う小説は数多あります。バトル物ならば特に、キャラの特徴としてはチョイスしやすいポピュラーな要素ですね。

主人公である伊藤は、とある女子校に着任してすぐ「永遠の命をもった生徒」のウワサを耳にします。最初は信じないながら、そのウワサはことある毎に彼の耳に入るにつれ立場上、命という物が何かを考え始める。

そんな彼の前に、ついにウワサの生徒と相対するが――。

という導入から始まるミステリはしかし、言うほど複雑な構造をしていない。登場人物はそれほど多くないし、すぐに答えも出る。しかしそれでも「不死」という物がなんなのか、主人公が答えに迫っていく様は淡々とした文章も相まって緊張感があります。

個性的なキャラクターが物語自体の舞台装置になってるのも面白い。どんでん返しに次ぐどんでん返しもなるほど、と唸ってしまいます。

死なない生徒についてことある毎に疑問を投げかけてくる同僚。不死な人と友達になりたい女生徒。自らを不死だと名乗る生徒。

キナクサイ。キナクサイよ!

けれども、彼、彼女らとのやりとりが軽快で、ズレていて、楽しいんですよね。

後半の静かな、一気に収束する物語はほどよい刺激になります。全体的に静かな、それでいてゾクっとする気持ち悪さ。

この手の物語を良く読む人にとってはありがちとも取られるかもしれませんが、軽く変な物語を読みたい人にはお勧めではないでしょうか。

王道、丁寧。だからこそグっとくる「魔王さんちの勇者さま」感想

澄人は16歳になった瞬間にたたき起こされ、父親から「勇者となって世界を救え!」と言われる。まだ眠いので再びふとんにもぐりこみながら、てきとーな返事をして二度寝ときめこむ。目覚めたら、見慣れない世界にいた。そんな澄人の前に〈魔王様〉が現れた!「我の部下になるというのならば、その命助けてやってもよいぞ」その言葉を聞いて、「そっちでお願いします」と、いうわけで、勇者の澄人は魔王の手下になり、魔王の娘の付き人としての生活が始まった!徳間デュアル文庫特別賞受賞作品。

そういうわけで、オーソドックスもオーソドックスな「我が部下になれば~」「はい」という流れのファンタジーものです。全体的にほのぼのとした空気が漂っており、魔王を殺すためだけの聖剣を持つ主人公と、魔族からも恐れられるほどの魔力を持つ魔王の娘との交流を描きます。

あっさりと流れるように描かれる設定は意外と重く、なぜ魔王が居るのか、勇者が居るのかという説明もカバー。そつなく綺麗にまとまっています。

王道、基本をしっかり抑えていて、それだけじゃない確かな魅力。のほほんとした主人公と、自分の力に戸惑いつつ成長していく魔王の娘との交流が楽しく、いつまでも続いてくれと願うばかり。

紙飛行機を見て魔法じゃ無いのか!? と息巻く姫を見て微笑む主人公の画が目に浮かびます。

そして魔王を倒しにやってくる人間。魔王の意味。勇者の意味。結末。

丁寧に描かれてきたからこそ結末が胸にきます。

剣と魔法、ファンタジーに少し飽きてきた人は、リセットの意味も含めて読んでみてはいかが。間違いなく良作です。

人を選びすぎるが異質な何かを感じる「耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳」感想

僕レイチ。今年から“八高”に入学する本地民(コネだけど)。植物でも愛でつつ妄想の中で暮らしていきたかったのに、クラスメイトは王国民流モラルハザードなヤツばっか!とくに何、この幼女?耳刈?ネルリ?せっかくの高校生活、痛いのはイヤー!(耳だけに)しかも何で僕が自治委員に任命されなきゃなんないワケ?王国民との対立とかもうお腹いっぱい、僕は今日も勉強会で忙しいんだってば―!第10回えんため大賞優秀賞受賞作、ついに登場。

大筋としては、全体主義に染まった国の学園にコネで入学した主人公と、周辺の辺境国からやってきた王族とのやりとりを描くコメディだ。しかしその描写は徹底している。当たり障りの無い「点数稼ぎ」にいそしむ主人公はしかし、その内に抑えきれない欲求が渦巻いている。

とにかく文章が変な方向にねじ切れ折れている。現実に耐えきれなくなった主人公のハイテンションで下品なエロネタの奔流に流されれば本筋を見失うこと間違いなしだ。

王族たちもそれぞれぶっ飛んでいて、特にヒロインでもある耳刈ネルリ一派は突出している。彼女の行動はおかしいようでいて彼女なりの筋を通しているのが窺える。そして全体主義とは違うことに主人公の葛藤がさらに拍車をかけていく。

中盤からの内面描写はもう栓が壊れた蛇口のように止まらない。

しかし、これだけの文字列を流し込んでも一種のテンポのような物を感じられる筆者の語彙力とセンスは素晴らしい。しれっと混ぜられる2chネタやらオタネタ。しかもそれがギャグではなくしごく真面目にねじ込まれるので恐れ入る。巻末のちょっとした解説にも確かな教養が窺える。ともあれ、出し惜しみないその姿勢、天晴れとしかいいようがない。こうしてみると、根底にはしっかりとした世界感と膨大なデータがあるのが窺える。

ひと味違うライトノベル、というよりも、まさに人を選ぶライトノベルと評するのが相応しいと思う。

物語が一気に加速して目眩すら感じる「ノーゲーム・ノーライフ 三巻」書評

ゲームで全てが決まる世界【ディスボード】――人類種の王となった異世界出身の天才ゲーマー兄妹・空と白は、世界第三位の大国『東部連合』に、その大陸全領土と”人類種の全権利”を賭けて行う起死回生のゲームを仕掛けたが、直後。謎の言葉を残して空は消えてしまった――……引き離された二人で一人のゲーマー『 (くうはく)』
消えた空の意図、残された白、人類種の運命は! そして獣耳王国(パラダイス)の行方は――!?
「言ったろ”チェックメイト”って。あんたらは……とっくに詰んでたのさ」
対獣人種戦決着へ――薄氷を踏む謀略が収束する、大人気異世界ファンタジー第三弾!

via: Amazon.co.jp: ノーゲーム・ノーライフ3 ゲーマー兄妹の片割れが消えたようですが……? (MF文庫J): 榎宮祐: 本

早いもので、このシリーズも三巻目に突入した。

独特な地文も、若干混乱するカメラワークもここまで来ると慣れてきて快感に変わってくる頃合い。

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すこし急ぎすぎなテンポがぬるさと良く合う「魔王と勇者の0フラグ」 書評

魔王城に乗り込み、あっさり倒されてしまった勇者。死を覚悟した彼女が、目を覚ますと―そこはのーんびりとした牧場だった!?そしてなんと、側には宿敵・鎧姿の魔王がいる。あろうことかそいつは、「勇者ちん、ボクと一緒に暮らそうよ」と言いだして―。キレ気味美少女勇者ちんと心優しい魔王の、騒々しくも牧歌的なギャグ&ピュアラブコメ。

via: Amazon.co.jp: 魔王と勇者の0フラグ (角川スニーカー文庫): 宮地 拓海, 日向 悠二: 本

魔王と勇者×ラブコメと、これまたなんと鉄板物で、どう勝負してくるのか気になって読んでみた。意外と直球で逆にびっくり。

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群像劇として、キャラクターの特性を綺麗に描き出すことに成功している「ガケロウデイズ」書評

『カゲロウデイズ』他、投稿された楽曲の関連動画再生数が1000万を超える超人気クリエイター・じん(自然の敵P)。その本人による書き下ろしノベルが登場!全ての関連楽曲を繋ぐ物語が初めて明かされ、さらなる「謎」を呼ぶ!―これは、8月14日と15日の物語。やけに煩い蝉の声、立ち揺らめくカゲロウ。真夏日のある日にある街で起こった一つの事件を中心に、様々な視点が絡み合っていく…。新感覚の燦然たる青春エンタテインメント小説。

via: Amazon.co.jp: カゲロウデイズ -in a daze- (KCG文庫): じん(自然の敵P),しづ: 本

ニコニコ動画で楽曲の作り手として人気のある「じん(自然の敵P)」自ら手がけると言うことで、本書はかなり話題となった。元々、著者の曲はそれぞれに相互リンクしているようなニュアンスがあり、曲中のキャラクターが他の曲に顔を出したり、一部のコードが過去曲から引用されていたりと、ファンの心をくすぐるような仕組みを持っていた。
曲自体も物語性が強く、ファンたちは様々な憶測を交えながら曲を理解するという楽しみがあった。そんな中で「カゲロウプロジェクト」という、著者の楽曲を繋いだ物語をリリースしていく企画が始動、本書はその第一歩目というわけだ。

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無味無臭の”あの頃”が横に座る「学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる」感想

郷愁と哀愁。後悔と未練。 鬼才、せきしろが紡ぐ短編ライトノベル集。 担任の先生が教壇に立つ。いつもなら騒がしい教室が今日は静かである。 生徒たちは誰も口を開かない。 「無事、卒業式が終わりました……」 教室に響く音、廊下に伸びる影、卒業式の涙。 図書室の先輩、アルバイト中のキミ、文化祭の僕。 鬼才、せきしろが自由律俳句、108字×108編のショートショートに続き挑んだ新ジャンル“短編ライトノベル”堂々開幕。

via: Amazon.co.jp: 学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる: せきしろ: 本

短編「ライトノベル」とされているが、まさに「ライト」だと思う。ただ、一般的なライトノベルの枠には絶対に入らないが。

まさにタイトル通り、登下校の足音、放課後の吹奏楽部の練習、チャイム――あらゆる「学校の音」に懐かしさと同時に、痛さのようなものを感じる人を狙い撃ちするような本だ。多感な時期を集団で過ごし、若く極端な思考による哲学を組み立て、それなりに充実した生活を送って、社会に出てみてふと振り返る。あの頃の自分は輝いていたのか、それとも、実はそれほど輝いていなかったのか……。本当は「無意味」だったのではないか。そんな風に錯覚(もしくは気づか)されるものとなっている。

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