人を選びすぎるが異質な何かを感じる「耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳」感想

僕レイチ。今年から“八高”に入学する本地民(コネだけど)。植物でも愛でつつ妄想の中で暮らしていきたかったのに、クラスメイトは王国民流モラルハザードなヤツばっか!とくに何、この幼女?耳刈?ネルリ?せっかくの高校生活、痛いのはイヤー!(耳だけに)しかも何で僕が自治委員に任命されなきゃなんないワケ?王国民との対立とかもうお腹いっぱい、僕は今日も勉強会で忙しいんだってば―!第10回えんため大賞優秀賞受賞作、ついに登場。

大筋としては、全体主義に染まった国の学園にコネで入学した主人公と、周辺の辺境国からやってきた王族とのやりとりを描くコメディだ。しかしその描写は徹底している。当たり障りの無い「点数稼ぎ」にいそしむ主人公はしかし、その内に抑えきれない欲求が渦巻いている。

とにかく文章が変な方向にねじ切れ折れている。現実に耐えきれなくなった主人公のハイテンションで下品なエロネタの奔流に流されれば本筋を見失うこと間違いなしだ。

王族たちもそれぞれぶっ飛んでいて、特にヒロインでもある耳刈ネルリ一派は突出している。彼女の行動はおかしいようでいて彼女なりの筋を通しているのが窺える。そして全体主義とは違うことに主人公の葛藤がさらに拍車をかけていく。

中盤からの内面描写はもう栓が壊れた蛇口のように止まらない。

しかし、これだけの文字列を流し込んでも一種のテンポのような物を感じられる筆者の語彙力とセンスは素晴らしい。しれっと混ぜられる2chネタやらオタネタ。しかもそれがギャグではなくしごく真面目にねじ込まれるので恐れ入る。巻末のちょっとした解説にも確かな教養が窺える。ともあれ、出し惜しみないその姿勢、天晴れとしかいいようがない。こうしてみると、根底にはしっかりとした世界感と膨大なデータがあるのが窺える。

ひと味違うライトノベル、というよりも、まさに人を選ぶライトノベルと評するのが相応しいと思う。