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【艦これ小説】海はどこまでも青くて 一日目

 ※この小説は、所謂「捨艦戦法」を取り扱っています。拒否反応を起こす方、不快に感じる方は読むのをお控えください。また、私自身にこの方法を批判する意図は無く、あくまでもそこから発想を得ただけのものとなります。
 他人のプレイスタイルに口出しするのはメ! なのです!!

◇

 ガチャガチャ、ガチャガチャ。ピカピカに新しい装備が楽しそうな音を立てる。
 コンクリートで固められた廊下は灰色で単調だけれど、窓から見える海はどこまでも青くって、丸い。
 うん、結構良いところね。
 指示された部屋はすぐ見つかった。ここで出撃の指示を待てば良いのね。
 力一杯に扉を開ける。
「新しく建造された雷よ! どうぞよろしく!!」
 期待半分、緊張半分で私は声を上げた。広々としたロビーには沢山の艦娘たちが詰めていて、なんだか不思議な雰囲気。
 ……。
 誰も声を返してこない。何故かしら?
 少し不安になりながら、私は辺りを見回した。
 誰も喋らない。俯いていたり、時計をじぃっと見つめていたり。たまに、装備や服がこすれる音がするだけ。
 さすがの私もちょっとだけ怖くなって、隅の方に移動したわ。
「あ……」
 見覚えのある後ろ姿。結い上げた後ろ髪。間違いない。
 そこには私の妹艦である電がいた。お姉ちゃんの私を差し置いて、先にいるなんて。
「電じゃない! どうして誰も喋らないの? というか私がいるのにどうして声をかけてくれな――」
 頬に衝撃が走った。視界が一気に横にそれる。
 ……「ぶたれた」それが分かるまで数秒かかったわ。電に頬をぶたれた。なんで?
「っ! なにするの……よ……」
 荒げた声は、だけれど尻すぼみで終わった。
 煤けた服と体、疲れが色濃く出た目尻、傷だらけの装備――、何より、私を見ているようで、見ていない瞳。
 本当に貴方、電?
 そう、口に出すことは出来なかった。
 今度はおなかに衝撃があった。遅れて、鈍痛がじんわりとせり上がってくる。
「ハッ……!」
 肺から空気が出ていくのってとっても痛いのね。見れば、電の膝が私のおなかにめり込んでいる。
 同時に、部屋にサイレンが鳴り響いた。気がする。
 というのも、苦しさのあまり跪いた私の顔に、電の拳が迫っていたから。

 ◇

「うっ」
 気がつけば、電はいなくなっていた。あれからずっと、ロビーの隅っこで転がされていたらしい。時計を見ていなかったから、どれくらい倒れていたのかも分からないわ。
 それにしても、みんな無視するなんて。ひどいところね。
「痛、たたた……」
 どうにか手だけで這うことは出来る。おなかに力を入れるとすごく痛い。
 背中を壁に預けて一息つ。立ち上がるにはもうちょっと時間が必要ね。
「ハァ、ハァ」
 若干ヒューヒューと呼吸音がするけれど、多分、大丈夫。骨も折れてはいないみたい。
「ぐ……うう……っ」
 膝を抱えて、静かに泣いたわ。ちょっとだけ、本当にちょっとだけね。
 電、どうしちゃったの?
 ううん、電だけじゃない。他の子たちもそう。
 ここは異様だわ。なにかがおかしい。
 窓のカーテンは閉め切られて、皆怯えるように耐えているみたい。
 なんで? どうして?
 あの窓の向こうになにか居るの?
 青い、丸くて綺麗な海の向こうに。