[ビジネス書]創作に携わる人には意外とヒントが多いかもしれない 「たくらむ技術」書評

「ロンドンハーツ」「アメトーーク! 」(テレビ朝日系)など大人気番組のプロデューサーが、自らの「脳内ノート」を大公開! ヒット企画の陰にある数々の「たくらみ」とは? バカな番組を実現させるクソマジメな仕事術とは? 「トレンドに背を向ける」「企画はゆるい会話から」「勝ち続けるために負けておく」「文句や悪口にこそヒントがある」「スベる人の面白さ」……「面白いもの」が好きな人、「面白い仕事」がしたい人、必読の一冊。

via: Amazon.co.jp: たくらむ技術 (新潮新書): 加地 倫三: 本

テレビの世界、特に制作に関わる人たちというのは、私のような一般人にとってはまさに「なにをしているのかすらわからない」部類の存在だ。

視聴者のために番組を作り、多岐にわたる出演者たちの間を取り持ち、企画を通して、面白い物を作ろうとする。本書ではさわりの部分ではあるけれど、それを垣間見ることができる。内容としては自己啓発本のような匂いすらも感じるけれど、どちらかというとこれからテレビの業界に飛び込もうとする人たちへの警告のようにも見えた。著者のエンタメ論、仕事論がありありと書かれていてとても興味深い。

どうすれば自分の作りたい番組は作れるのか。どうすれば企画は通るのか――まさに実践的な、経験測で固められた話が続く。

ただ、比率としてすこし番組作り、面白さ、出演者分析に傾いていて、タイトルにもなっている「たくらむ技術」には首を捻ってしまう気もする。

 僕の理論としては、テロップは「読ませる」ものではなく、「見せる」もの。「読む」作業は「見る」作業よりも、時間がかかるので、出演者のしゃべる音を聞く時に、長いテロップを「読む」ことになると、それが邪魔になってしまいます。芸人さんの巧みな言い方や、絶妙な間や声のトーンなどの相乗効果で笑いが生まれているのに、それが台無しになってしまうのです。

 テロップを出すタイミング、内容は決まったとしても、それ以外にも考えるべきことがあります。先ほども触れたように、文字の大きさ、色、デザイン等々も考えなくてはならないからです。
汗の絵を入れたらより面自い場合もあるでしょう。こうした工夫は雑誌や本でも同じようにやっていることだと思います。

p23

テロップ一つとってもこだわりが見える。いや、なんらかのこだわりはあるのだろうなとは思っていたが、演出、視覚効果という意味で、ここまで考え込まれているとは想像もできなかった。番組の中で数秒しか流れない文字列に、どれだけの技術がつめこまれているのだろう。次からテレビを見るときは見方が変わっているかもしれない。

同業者たちへの苦言も恐れなく発していく。

編集する側は短くしやすいところからカットしていきがちですが、ただ話が長いからという理由で、面自い場面をバッサリ全てカットするのはもっての外です。それでも、色々な番組や後輩たちが作ってきたものを見ると、これに近いミスが気になります。

 あるエピソードが披露されてスタジオ内が大爆笑に包まれ、あまりの面白さに、笑いが10秒間も続いたとします。ただし、そのうち最初の3秒が大爆笑で、残り7秒が余韻だった。

こういう時に、作り手側はついつい残り7秒の部分をカットしてしまうのです。

(中略)

 ところが、これは不正解。「7秒の余韻がカットされる」ということは、つまり「テレビの前にいる視聴者が、笑い終わって落ち着く時間がカットされる」ということだからです。自分の笑いが収まっていないと、その後に続くトークに集中できません。すると、次の面白いエピソードの話し始め、つまり話の「フリ」の部分をちゃんと聞けていない。結果として、「オチ」を聞いてもきちんと伝わらず、「完璧に面白いトーク」とは思ってもらえない。笑いが1つ死んでしまうことになるのです。

  視聴者側の気持ち、生理を無視してしまう編集とはこういうことです。

p24-25

すこし暴露話っぽいエピソードもちょこちょこ出てくるが、陰湿な印象は受けない。著者が本当にテレビ作りに一生懸命だからだろうと思う。

空白、余韻、効果、演出・・・。娯楽方面の創作をする人にもヒントとなるような事がちりばめられていて、創作意欲も刺激される、とても良い本だった。

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ところで、著者は少し出川が好きすぎると思う。