概要
特に努力もしたことがなく、人付き合いも破滅的に悪く、しかしプライドだけは高く。典型的なダメ人間であるタケオはズブズブと人生のどん底に落ちていく。
その中で、ついに出した自身への答えが「同人誌」を出して稼ぐ事。
タケオの人生最大の賭けが幕を開ける。
典型的なサクセスの皮を被ったリアル
タケオの向こう見ずな行動や思考は、しかし創作における私たちの無意味な自信やプライドに通じるところがある。
物を作るという行為それ自体が私たちに及ぼす精神状態。その様を見事に、リアルに描いて見せているのはさすがといったところ。
しかしお世辞にも、単純なサクセス物としてこの本を読むとあまりにもご都合主義であり、淡々と時間軸が進む。枝葉が分かれていないシンプルな話の流れは、あまりにもタケオの成長がまっすぐ描かれて過ぎているのだ。伏線や目立たせたいコマがさらりと流れていき起伏に乏しいとさえ思えてしまう。
一方で「こういうものなんだよな、うんうん」というじんわり来るものも確かにあるのだ。創作ってそういうもんだよな。わかる、わかるよ。回りは天才で、俺は自分を信じることでしか自我を保てないんだよ。なんといわれようと、心の中では俺が一番だと思い続けてないとガラガラ崩れそうなんだよね。・・・みたいな。
著者の魂の声が聞こえるか
web漫画独特の荒々しさ、蛇足感、無駄ゴマがあまり見受けられない。スッキリ。コンパクト。その理由はあとがき漫画に描かれている。
そこには著者がweb連載時に感じていた葛藤や苦悩が赤裸々すぎるほどにつづられている。その数ページの濃さといったら。まるで濃縮された呪詛だ。ドロドロとした感情が煮詰まり、ぶちまけられているように思う。それでも最後に「ありがとう」と言ってのけた著者に拍手を送りたい。
そうして出来上がったと知ったこの本を、もう一度最初から読み返すとまた違った味わいを感じる。私はこの物語がたまらなく愛おしい。
何度も何度も叩いて作り直された物語は、残念ながらコンパクトにまとまってしまった、というのが私の印象だ。
それでも、この作品に魂が詰まっているのを確かに感じる。