小説を投稿したことがある人たちの疑問に的確に答えていく「懸賞小説神髄」書評・読書メモ

 編集者、書き手の指南書というのはいくつも見てきたが、「下読み」の指南書というものは初めてなので、思わず手が伸びた。まず、視点が違うとこれだけ考え方が違うのだなと驚かされる。

 人称の違い、歌詞の引用、実在するもの・ことのパロディ、幕引き、執筆技法、テーマ、エロの配分……私たちはそのさじ加減というか、分量というか。そういったところにかなり悩まされながら小説を書く。それは投稿するまで続き、投稿したあとも「あれは正しかったのか、あれでよかったのか」とまた悩む。

 その繰り返しが続く中で、なにが正しく、なにが間違いなのかというのはひどく曖昧になっていくものだ。

 下読みという立場の人々は、そんな私たちの小説を読む最初の読者であり、評価者でもある。彼らがどういったものを可とし、不可とするのか。わかりやすい口調で語ってくれるとてもありがたい本となっている。

 気合いを入れて執筆にあたる前に、戒めとして読み返すのにはもってこいの本となっている。

  • 結局は「売れるのか、売れないのか」

 取り上げる話題は多岐にわたる。リーダビリティ、行間、縦書き、横書き、レイアウト、フォント、プロフィール、略歴。けれども、それらが最終的に指し示すのは、商品としての価値があるのかどうか、その一点のみである。

 突き詰めれば、面白いものこそが売れる! 面白ければそれでよし!

 だからこそ私たちは悩んで悩んで悩みぬくわけだが。著者はこういった問題を、下読みという立場から分析しにかかっている。他の指南書とはひと味違うといったところか。指南書はもう飽きた人には、初心を思い出すのにいいだろう。

 

 その基準とは、「改稿すべき箇所がどれだけあるか」ということです。
 もしその作品が賞をとって、本として出版されるとなったとき、小説としてきっちり完成している作品であれば、それほど改稿せずに出版することができます。
 その一方、語り方が未熟なため、読者が読みにくい思いをしそうな部分があれば、未完成部分を修正するか、削除するなどして改稿しなければなりません(※)
 そのことをチェックしながら作品を読むのです。

p21より

 著者の読み方、判断のしかたがこういう一文から読み取れるのは大変ありがたい。作品として、生産物として、どれだけ手直し、つまり手間があるかを考えながら読んでいるのだなと思えば、少なくとも誤字脱字なんてのはもっての他なのだなと推測することができる。

 他にも、編集のセンスが問われる部分についての言及や裏話、噂話なども取り上げられている。小説が出来上がる舞台裏に興味がある人にもお勧めだ。