他人を蹴落としてまでも叶えたい願望のある人間を集めて開催される、地獄のリアリティーショー「キルデスビジネス」
標的には死を、ライバルにも死を。全てが許されるゲームが始まった。
全ては視聴率のために。
ボードゲームの祭典「JGC」にて、先行販売されたものを早速プレイしてみました。方々でも感想はあがってるかと思いますが、本記事はあくまでシステムルール自体の感想に終始します。
全体的に軽い
とにかく軽い。
キャラクターシートに記入する項目も少なく、HPやMPのような概念すらも取りさらった潔いステータス。キャラの性質や性格もランダム表が用意されており、迷うならそれに頼れば特長的なキャラクターがすぐに出来上がる。
地獄に呼び出された人々がテレビ番組に出演させられて標的を殺すことを要求される。それぞれ他を蹴落としてでも叶えたい願望があり、この番組の景品ともなる。しかし、それが叶うのは一人だけ・・・。ここまでお膳立てしてくれるので、プレイヤーもスムーズにゲームに入り込むことができるし、まどろっこしいモノローグも必要ない。
攻撃はスキルにて行う。スキルには一行から二行の記述で効果が収まっているので判断に迷う事もない。一人二つのクラスを選択し、クラスごとに三つずつのスキルが用意されている。二つのクラスで計六つのスキルを自動で取得。どれを取得して、どれを省くかなんてまどろっこしい事もない。とにかくクラスを選べばもうそのキャラが完成する。攻撃が成功すれば相手が死に、失敗すれば反撃されてこっちが死ぬ。シンプル。
インパクトがありながら、数行の説明で済む世界観
舞台は地獄。しかし独自の文化や地図や名前なんてものを説明する必要はまったくない。地獄のものには全て「ヘル」がつくだけだ。「ヘル」がつけば全て地獄のもの。とにかく「ヘルヘル」言っておけばそれでOK。アホらしいがインパクト抜群で、実際やってみるといつまでも頭に残るほどに影響力の強い設定だ。
「ここはヘル教会のヘル祭壇です。標的が懺悔をしているところに貴方たちが登場しました。足元にはヘルプロデューサーが指示した通りヘル目張りが張られているので、そこに立って整列してください。一瞬送れてヘル花火が爆発してヘル火花が散り、ヘルファンファーレが音量『ヘル』で鳴り響きました!! ヘルカメラマンがヘルローアングルで貴方たちのヘルカッコイイポーズをヘル写します。音楽が切り替わり『ヘルバッヘルベルンのヘルカノン』になったところで戦闘がスタートします」
始終こんな感じですばらしく楽しい。
作成されるキャラクターも妄言と妄想を詰め込んだものを作れれば完璧だ。例えばウインクで相手が蒸発するとか、お辞儀をすると相手が爆発するとか、抱きつくと相手が粉砕されるとか、オヤジギャグを言えば相手が凍り付いて死ぬとか。そんなことを考えながら楽しくわいわいキャラを作ろう。
そぎ落とされてコンパクトにまとまったルール
一方で、システムルール自体はかなりコンパクトにまとまっている。まるでボードゲームのようにキッチリとしており、GMの調整が入り込まないほど。最悪全員プレイヤーでも成立するのではないかと思えてしまうくらいだ。
GMの作成する標的と、それを守護する守護天使も実際そこまで強くもない。あくまで標的であり、倒される存在であると完全に定義されている。PLたちは「誰が」それらを倒すのか、「誰を」出し抜くのか、という思考戦が始終展開されており気が抜けない。まさにボードゲーム的というか、カードゲーム的というか、戦略が物を言う。
戦闘に破れると強くなるというのも面白い。わざと負けるという選択肢すら出てくるからだ。
サイコロフィクションというTRPGシステム群の、ひとつの最適解にも見える反面、サイコロフィクションだからこそというデメリットも見えるのも事実。手番があり、サイクルで一人ずつ行動していくのがサイコロフィクションだが、戦闘は長くなりがちだし、その間参加しない人は待機することになる。暇な時間がどうしても出来るというのは、まあ今までのサイコロフィクションでもあったことだ。ロールプレイをいくらでもできて口を軽く挟める人なら問題ないかもしれないが、今回は対立の面が強いので今までより色濃くそういった部分が浮き出る。もしかするとこのシステム面で合わない人は出てくるかもしれない。
最終的な勝利をどうイメージするのか、どうロールプレイをするのか、どう立ち回るのか。多方面で思考をまわすので以外と負荷は高い。しかし、パーティーゲームのような手軽さも同時に併せ持っているので、初心者のTRPG入門にはぴったりなのかもしれない。断言できないところがTRPGの難しいところでもあるなと思う。